
最近、競馬界で話題になった高杉吏麒騎手のフリー転向騒動。これに関連して、元南関東のトップジョッキーである森泰斗調教師がSNSで発信した言葉が、多くの競馬ファンの関心を集めました。
厳しい言葉にも聞こえますが、実際にJRAの若手ジョッキーたちはどれほどのお金を手にしているのでしょうか。今回は、高杉騎手のケースを例に挙げながら、知られざる「JRA騎手のお金と補償のリアル」に迫ります。
2024年にデビューし、現在3年目の高杉吏麒騎手。2026年9月時点でキャリア通算160勝を挙げ、今年もすでに38勝をマークしている若手のホープです。
※デビューわずか2〜3年の20歳前後という年齢を考えれば、一般的な同世代とは比較にならない破格の収入です。
この莫大な収入は、主に以下の「3大柱」から成り立っています。
この仕組みにより、トップジョッキー(リーディング上位)になれば年収1億円〜2億円超は当たり前。中堅層(年間30〜50勝ペース)でも3,000万〜7,000万円を稼ぎ出します。
たとえ年間数勝〜10勝前後の若手・下位層であっても、減量特典を活かしてコンスタントに騎乗回数を稼げば、騎乗手当だけで1,000万〜2,000万円の年収を確保できるのがJRAの世界です。
高収入の裏には、騎乗交渉代理人(エージェント)への報酬(約10%)や、馬具の管理を任せるバレットへの給与、そして最大約55%(所得税45%+住民税10%)にも達する莫大な税金といった多額の経費・支出もかかっています。
プロスポーツ選手としては珍しく、JRA騎手には「騎手養老金制度(共済制度)」という独自の退職金システムが存在します。現役時代に稼いだ賞金や手当から自動的に積み立てられるため、引退時には莫大な金額になります。
騎手を引退して調教師に転身する場合も、一度この養老金が清算されます。名手と呼ばれる騎手たちが40代で調教師に転身する際、この数億円規模の退職金を厩舎の開業資金や設備投資に充てるケースも少なくありません。
なぜこれほどまでに給与や退職金、そして制度が手厚く保護されているのか。それは、騎手という職業が常に「死や重度障害」と隣り合わせだからです。落馬事故による怪我で引退を余儀なくされたり、命を落としてしまうリスクが常にあります。
障害等級に応じて、日本騎手クラブから最も軽い14級で約36万円〜、最も重い1級(車いす生活など)で最大3,400万円が支給。さらに実績に応じた「騎手養老金」が支払われるため、中堅以上なら数千万〜1億円以上が引退後の生活保障として支払われます。
万が一の事態が起きた場合、遺族には以下の3つが合算して支払われます。
※長年活躍した騎手の場合、遺族に支払われる総額は数億円規模に達すると言われています。
競馬学校を卒業し、世間の一般的な金銭感覚を知らないまま20歳前後で数千万、あるいは1億円近い大金を手にする若手騎手たち。森泰斗調教師が指摘した「勘違いしやすい」という懸念は、この特殊すぎる収入構造を見れば誰もが納得できるはずです。
しかし、その破格の報酬は「時速60kmで走る馬の上で命を懸けている対価」に他なりません。どれほど大金を手にしようとも、一度の落馬ですべてを失う過酷な現実がそこにあります。
大金に溺れず、自らを律して技術を磨き続けることができるか。それこそが、一過性の「稼げる若手」で終わるか、競馬史に名を刻む「トップジョッキー」になれるかの決定的な分かれ道と言えるでしょう。